公契約条例の制定について

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◯11番(杉本 護君) 日本共産党の杉本 護です。
 通告に従って、公契約条例の制定について質問いたします。
 まず初めに、公契約条例とは、端的に言えば、自治体と契約を結ぶ公共事業で働く労働者の最低賃金額を定めると考えています。
 配布した資料の1ページから2ページをごらんください。
 要綱型も含めて全体で54自治体、ここにある二重丸の賃金条項がある条例は、2009年9月に野田市で初めて制定されて以来、14市4区にまで広がっています。
 これまで日本共産党市議団は、公契約条例の制定により、市発注の公共工事、あるいは業務委託、指定管理者制度のもとで働く労働者の適正な賃金、労働条件を確保することで、公共サービスの質の向上につながるなど、その意義と必要性を訴えてきました。
 当局は、この間の議会答弁で、条例の趣旨については重要であるとの認識を示していますが、幾つかの課題を指摘するにとどまり、制定に向けての動きは、残念ながら示されていないと思います。
 そこで、まず最近の労働者の賃金実態についてです。
 正規、非正規労働者は、労働者の約4割を占め、年収200万円以下のいわゆるワーキングプアは、11年連続で1,000万人を超えています。実際の労働者も、非正規労働者が64万人となり、全体の2割が官製ワーキングプアとなっています。
 それでは、本市においてはどうなっているのでしょうか。建設工事、業務委託、指定管理の年間での3,000件を超える契約で、そこでは多くの人がひとり親方、あるいは労働者が仕事をしています。建設工事の契約は、最低制限価格制度で、一定のダンピングは抑えても、労働者やひとり親方の賃金及び日当の保証はありません。
 個人が特定されるので、資料は提出していませんが、一例として、市の発注した平成26年の建設工事における末端の防水工事の業者です。この方は独立して20年のベテランですが、指値で日当1万5,000円、このときの設計労務単価は2万1,600円ですから、69.4%です。その業者は、今年度、平成29年度も県の発注工事でも1万5,000円の日当です。設計労務単価比では59.2%にしかすぎません。
 また、市の清掃業務の委託契約の場合、資料の3ページを見てください。
 平成25年から29年の5年間、業務内容が変わっていないもとで、静岡庁舎新館は900万円以上、本館は300万円以上も委託契約料が下がっています。経営状況があると思いますが、そこで働く労働者の賃金や労働条件への影響を懸念しています。
 また、資料の4ページには、適正な指定管理者制度を考える研究会が2016年に静岡県内の指定管理者先を対象に労働者アンケートを行っています。回答者は267人あり、そのうちの117人が静岡市内の施設で働く労働者です。職場で不満を感じることでは、賃金・手当が安いが125人と群を抜いて多く、賃金への不満が大きいことが明らかとなっています。
 ここで思い起こしていただきたいのは、2006年7月に埼玉県ふじみ野市の市営プールで、幼児が、吸い込まれ防止柵の外れた吸水口に吸い込まれて死亡した事故です。このプールは業務委託になっていたのです。業者が外れた柵の使い方がわかっていなかったそうです。担当の課長と係長が刑事責任を問われ、有罪となっています。
 この事件は、業務委託先や指定管理者を選定する基準として、より安ければいいといった風潮に一石を投じました。安心・安全を担保するには、また業者の人的・人材確保の上でも、一定水準の賃金が必要ではないかと思っています。
 そこで、2点質問します。
 まず、市の発注する建設工事及び業務委託や指定管理者など、公共にかかわる意義ある仕事をしている中で、官製ワーキングプア、私はあってはならないものと考えていますが、市の認識を伺います。
 2点目は、市が発注する建設工事や業務委託、指定管理のもとで働く労働者について、賃金などの実態把握はしているのか。また、適正な賃金が確保されるためにどのような施策を講じているか、伺います。
 これで1回目の質問を終わります。

◯財政局長(平沢克俊君) 官製ワーキングプアに関する認識と、市の発注業務における適正賃金の確保策についてですが、市が発注する業務においては、労働関係法令を遵守した適正な労働条件を確保することが重要であると認識しております。このため、市においては、適正な賃金の確保策として、市が発注する建設工事や指定管理、業務委託において、経費の積算を国の積算基準等に基づいて適正に行うほか、建設工事などにおいては、最低制限価格制度及び低入札価格調査制度を設けることによって、低価格受注による賃金支払いへの影響がないように努めています。
 また、建設工事の下請や業務委託の再委託に関しても、市に提出される施行体制台帳や再委託承認申請書により、業務内容や契約額が適正であることを確認しております。
 なお、実際に労働者へ支払われている賃金については把握していませんが、労働基準法等に関し違反がある場合には、労働基準監督署が是正の監督指導等を行うこととなっております。
  〔11番杉本 護君登壇〕

◯11番(杉本 護君) 2回目の質問に入ります。
 今の答弁に対しての意見は、後から述べせていただきます。
 日本共産党市議団は、これまで毎年のように公契約条例の制定を求めて議会でも質問してきましたが、その都度、当局は検討すべき課題を挙げて、何年もコピーのように同じ答弁を繰り返しています。
 そこで、この間、課題としていることについてもう少し掘り下げてみたいと思います。
 初めに、公契約で賃金を規定することについてです。
 当局は、労働者の賃金等の雇用条件については、労働基準法等の労働関係諸法令を遵守し、雇用主と労働者との雇用契約に基づき定められているものであるため、市が介入することへの是非が指摘されていると述べています。
 そこで、考えたいのが、公契約条例とは、契約を結ぶ相手方の事業者に限定して、自治体が定める賃金以上の支払いを義務づけるもので、この条件で契約を結ぶことについては、事業者側の自由が保証されています。また、個々の契約での賃金規定であって、都道府県ごとに定めている最低賃金と異なる賃金をこの市が全体として定めるものではないため、問題はないと考えています。
 既に野田市を初め多くの自治体が公契約条例のもとで賃金規定を設けています。法的な問題は起きていないと認識しています。まず、この点についての見解を伺います。
 次に、その他の課題について幾つかお聞きします。
 1つは、全ての公契約を対象にした場合の実効性の問題と、対象範囲を限定したときの公平性確保の問題についてです。
 既に公契約条例を制定している自治体での適用範囲は、建設工事では工事高5,000万円以上から6億円以上、委託契約は契約料1,000万円以上が多く、500万円以上の自治体もあります。指定管理は全ての施設を対象にしている自治体が多く、条例の対象外にしているところもあります。条例違反については、罰則規定を設け、実効性あるものへと努力をしています。
 私は、建設工事、業務委託、指定管理など、全てを対象にすべきと考えていますが、今後、十分に検討すればいいと思っています。当局の実効性や公平性に対する考えを伺います。
 2つ目は、調査に要するコスト増の問題についてです。
 条例を制定した後のコストを指しているというふうに思っています。その実効性を確保するために、市の職員の配置や契約先の賃金等の実態把握など、さまざまなコストが想定できますが、何にどのようなコストがかかるのか、伺います。
 3つ目は、客観的基準に基づく賃金の設定についてです。
 最低賃金の設定は、自治体により異なりますが、建設工事の場合は、設計労務単価の8割から9割などの基準を設けています。
 業務委託では、野田市は一般職職員の給与などを基準に定めています。本市においても、設計労務単価比や市職員の初任給、専門職は類似の初任給基準に専門性に応じた率を加算するなどが考えられると思います。これについても当局の考えを伺います。
 4つ目は、企業への影響についてです。
 条例のある川崎市、多摩市に、静岡県地方自治研究所などが訪問し、聞き取り調査をした調査報告書があります。両市とも事業者とのトラブルの報告は特にないとのことです。
 多摩市の事業者アンケートでは、条例にほぼ100%の理解が得られ、労働条件の安定については、成果があるが26%、今後あるが48%です。工事や業務の質では、向上したが19%、今後、向上につながるが33%。地域経済の活性化につながったか、これについてはつながったが15%、今後、向上につながるは33%の回答が得られています。このような中で、本市ではどのような影響を危倶されているか、伺いたいと思います。
 2回目の質問の最後です。
 先ほど当局から適正な賃金確保のための施策をお聞きしました。そのこと自体は重要だと思います。
 国土交通省からも、技能労働者への適切な賃金水準の確保についてという通達に基づいて強化を図っていることと思います。
 しかし、実態は、先ほども防水工事業者の例で示したとおり、設計労務単価を引き上げても、それを確保できず、安い賃金で働かされている下請労働者がいるというのが現実です。最低賃金を法的に拘束する公契約条例なしには、その保証はないということです。
 建設業者が年々減少し、技術の継承も今できずにいます。災害発生時には多くの建設労働者が復旧・復興に力を発揮します。建設労働者は、そうした社会的財産としても育成することが必要ではないでしょうか。
 以上、さまざまな課題はありますが、それを乗り越えて公契約条例を制定する意義は、私はあると考えています。条例制定に向けて、当局の考えを改めてお伺いします。
 これで2回目を終わります。

◯財政局長(平沢克俊君) 公契約条例制定における検討すべき課題についてということでお答えさせていただきます。
 まず、賃金等の雇用条件に関し市が介入することへの是非についてですが、労働基準法において、労働条件は使用者と労働者が対等の立場で決定すべきものであるとされ、また最低賃金は、最低賃金法に基づいて、静岡県最低賃金が定められております。このように法令に基づき、使用者と労働者において決定される雇用条件に市が関与することについては、慎重に判断すべきものと考えております。
 次に、公契約条例制度における4つの課題に対する考え方についてお答えをしてまいります。
 まず、1つ目の公契約条例の実効性と公平性につきましては、全ての公契約を対象とした場合、調査コストが多大となり、詳細な調査を実施できないとなれば、実効性が損なわれる可能性があります。また、対象範囲を限定した場合には、対象者にだけ調査の負担を強いることになるほか、賃金格差が生じる可能性もあり、公平性の観点から問題があると考えております。
 2つ目の調査に要するコスト増については、元請業者や下請業者を含む全ての事業者に対して報告書の作成、提出を義務づけるとともに、労働者個人に対して確認作業を行う必要が生じる場合もあるため、これらをチェックする市の調査コストの増加に加え、受注者側の負担も増大することになります。
 3つ目の賃金の設定については、職種や労働者の技術的能力などに応じて決定されるものであり、また最低賃金は法で定められているため、客観的な賃金設定には課題があると考えております。
 4つ目の企業への影響については、条例により最低賃金を上回る賃金設定を行った場合、人件費の増大によって、特に中小企業においては経営が圧迫される懸念があります。
 最後に、公契約条例の制定についてですが、他自治体の条例では、公契約に係る業務に従事する労働者の適正な労働条件を確保することによって、当該業務の質の確保を図ることが目的とされており、その趣旨は重要であると認識しております。
 しかしながら、ただいま答弁させていただいたとおり、幾つかの課題があり、また、現時点では公契約条例を制定している政令市は3市で、他の政令市においても、具体的に制定する動きはない状況であることから、引き続き情報収集に努めてまいります。
  〔11番杉本 護君登壇〕

◯11番(杉本 護君) 3回目は、意見・要望です。
 回答いただきましたが、残念ながら現時点で公契約条例制定に向けた前向きな答弁はいただけませんでした。
 他都市の情報は把握しているそうですが、今の答弁からは、把握するのみで、十分な検討をされているようには思えませんでした。
 ここで考えてほしいのは、今の静岡市の人口減少問題です。人口減少にはさまざまな要因がありますが、賃金格差も1つの要因となっています。最低賃金は、愛知県で時給871円、神奈川県は956円、挟まれたこの静岡県は832円です。静岡市からの転出で最も多いのは東京ですが、その東京は958円で、126円の差があります。こうした最低賃金の低さが静岡市の賃金相場をつくり、暮らしにくさが子供の出産を抑え、若者の転出超過としてあらわれています。
 企業が法令どおりに最低賃金を守っても、年収200万円に満たないのが現実です。公契約条例をつくれば、全てが解決するとは言いませんが、少なくとも官製ワーキングプアを減らしていく一助となり、そうした基準が民間の労働条件を引き上げることにつながるのではないでしょうか。
 繰り返しになりますが、課題について指摘するだけではなく、まず静岡市と契約を結ぶ事業者における労働者の賃金実態、あるいは労働実態などを調査し、そしてほかの都市は、そういったもので公共工事の質の低下、あるいは労働者のやる気のなさといったことが問題となって公契約条例をつくったんです。そうした状況が、この静岡市の中に発生しているのか、いないのか、そういった現実をちゃんと見た上で判断すべきではないでしょうか。
 政令市といろいろと情報交換しているそうですが、それだけでは前に進みません。大事なことは、静岡市民の実態がどうなっているのか、この条例をつくることが本当に必要かどうか、その根本的なところを調べていくことが大事だというふうに思います。ぜひそういった調査に踏み込むことを求めます。
 先日、市長は、1つの課題について7年かけてつくったことをほめていました。私もこの問題、中小業者の出身として、公契約条例が制定されるまで頑張りたいと思います。
 以上です。